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京都地方裁判所 平成8年(ワ)85号 判決

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  原告の求めた裁判

1  被告は、原告に対し、金一二三万二二一八円及び内金八〇三万六四五八円に対する昭和六三年五月三一日から支払済まで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  原告の請求原因

1(一)  原告は、訴外佐藤悦子(以下「訴外債務者」という)の委託により、昭和五六年四月二七日、訴外債務者との間で、次の内容の信用保証委託契約を締結した。

(1) 訴外債務者が訴外株式会社京都銀行小栗栖支店(以下「訴外銀行」という)から金員を借り受けるにつき、原告は貸付金二五〇万円の限度で訴外債務者のために信用保証協会法に基づく保証を行う。

(2) 原告が右保証に基づき、訴外債務者のために訴外銀行に弁済したときは、訴外債務者は原告に対し、直ちに右弁済額及びこれに対する弁済の日の翌日から支払済に至るまで年一四・六パーセントの割合による損害金を支払う。

(二)  被告は、前記信用保証委託契約に際し、原告との間で、訴外債務者が右信用保証委託契約に基づき原告に対して負担する一切の債務について連帯して保証する旨を合意した。

(三)  原告は、訴外銀行に対して、昭和五六年四月二七日、信用保証書を発行することにより訴外債務者の債務につき保証をした。

(四)  訴外債務者は、原告の保証に基づき、右同日、訴外銀行から金二五〇万円を次の条件で借り入れた。

(1) 利息  年九・八パーセント。

(2) 返済期限  昭和五六年七月から昭和六一年三月まで毎月二三日限り金四万四〇〇〇円宛(最終回金三万六〇〇〇円)の分割払。

(3) 特約条項  分割金の支払を一回でも怠ったときは訴外銀行からの請求により期限の利益を失う。

(五)  その後、訴外債務者は訴外銀行に対し、元金として金七〇万四〇〇〇円、利息として昭和五七年一一月二四日までの分を支払ったのみで、その余の返済を怠った。

(六)  そこで、訴外銀行は訴外債務者に対し、昭和五九年九月二八日に書面にて請求をしたが、訴外債務者からの返済がなかったので、同年一〇月一九日に訴外債務者に対して負担する預金返還債務金七七五円と未収利息三三万五一三八円との対当額で相殺した。

(七)  原告は、同年同月同日、前記保証に基づき訴外銀行に対し、元金として金一七九万六〇〇〇円、利息として金三三万四三六三円の合計金二一三万〇三六三円を弁済し、訴外債務者に対する求債権を取得した。

(八)  その後、別紙「一部弁済ならびに損害金計算表〈1〉」のとおり弁済を受けた。

2(一)  原告は、訴外債務者の委託により、昭和五七年六月二二日、訴外債務者との間で、次の内容の信用保証委託契約を締結した。

(1) 訴外債務者が訴外京都信用金庫醍醐支店(以下「訴外金庫」という)から金員を借り受けるにつき、原告は貸付金六〇〇〇万円の限度で訴外債務者のために信用保証協会法に基づく保証を行う。

(2) 原告が、右保証に基づき、訴外債務者のために訴外金庫に弁済したときは、訴外債務者は原告に対し、直ちに右弁済額及びこれに対する弁済の日の翌日から支払済に至るまで年一四・六パーセントの割合による損害金を支払う。

(二)  被告は、前記信用保証委託契約に際し、原告との間で、訴外債務者が右信用保証委託契約に基づき原告に対して負担する一切の債務について連帯して保証する旨を合意した。

(三)  原告は、訴外金庫に対して、昭和五七年六月二二日、信用保証書を発行することにより訴外債務者の債務につき保証をした。

(四)  訴外債務者は、原告の保証に基づき、右同日、訴外金庫から金六〇〇万円を次の条件で借り入れた。

(1) 利息  年八・二パーセント。

(2) 返済期限  昭和五七年一〇月から昭和六四年六月まで毎月一五日限り金七万四〇〇〇円宛(最終回金八万円)の分割払。

(3) 特約条項  分割金の支払を一回でも怠ったときは訴外金庫からの請求により期限の利益を失う。

(五)  その後、訴外債務者は訴外金庫に対し、元金として金五一万八〇〇〇円、利息として昭和五八年五月一五日までの分を支払ったのみで、その余の返済を怠った。

そこで、訴外金庫は訴外債務者に対し、昭和五九年九月一二日に書面にて請求をしたが、訴外債務者からの返済はなかった。

(六)  原告は、同年一〇月一九日、前記保証に基づき訴外金庫に対し、元金として金五四八万二〇〇〇円、利息として金六四万四〇九五円の合計金六一二万六〇九五円を弁済し、訴外債務者に対する求債権を取得した。

その後、原告は、右求債権につき、別紙「一部弁済ならびに損害金計算表〈2〉」のとおり弁済を受けた。

3  よって、原告は、被告に対し、求償債務元金八〇三万六四五八円及びこれらに対する昭和五九年一〇月二〇日から昭和六三年五月三〇日までの年一四・六パーセントの割合による確定損害金四三一万五七六〇円の合計金一二三五万二二一八円並びに内求償債務元金金八〇三万六四五八円に対する昭和六三年五月三一日から支払済まで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

4  なお、原告は、右二口の求償債権については、被告に対し、既に大阪高等裁判所平成二年(ネ)第四一二号求償債権請求控訴事件(原審・当庁昭和六三年(ワ)第二三二一号)の平成三年二月二一日言渡しの判決が確定したことにより債務名義を取得している。

ところが、訴外債務者は、昭和六〇年九月一三日に破産宣告(同時廃止)を受け、昭和六一年八月一九日に免責決定を受けているため、原告は同人に対する請求をしていないところ、同人に対する本件の主債務は、被告に対する右判決により消滅時効が中断したが(民法四三四条)、判決当事者でないため、右主債務については、時効期間の延長(民法一七四条の二)がなく、商法所定の五年の時効の完成が間近に迫っている。右時効が完成すると、保証債務の付従性から、被告の本件連帯保証債務も消滅するので、改めて本訴を提起した。

三  被告は、適式の呼び出しを受けながら本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

理由

一  訴えの利益について

1  原告は、被告に対し、本件で請求している求償債権について、平成三年二月二一日に確定した大阪高等裁判所平成二年(ネ)第四一二号事件の判決(一審・当庁昭和六三年(ワ)第二三二一号)により、既に債務名義を取得している。

2  同一の債権について既に確定判決を得ている場合には、さらに給付を求める訴えを提起しても訴えの利益を認めることはできないが、例外的に、消滅時効を中断する必要があり、裁判上の請求によらなければその目的を達することができない場合には、時効中断のためにする再度の訴えにその利益を認めることができる。

3  ところで、本件請求にかかる求償債権は、被告に対する保証債権自体は、右確定判決により、時効は中断され、しかも、その時効期間は、民法一七四条の二第一項により延長されて一〇年となったから、その時効が完成するのは平成一三年二月であって、今、本訴をもって時効を中断する利益はない。

4  ただ、本件の訴外銀行及び訴外金庫の貸付金債権は商行為によって生じた債権であり、この債権を代位弁済することによって原告が取得した求償権も、商法五二二条所定の五年の短期消滅時効にかかる債権である。

そして、連帯保証人に対する確定判決による時効中断の効果は主債務者にも及ぶ(民法四五八条、四三四条)が、時効期間延長の効果(民法一七四条ノ二)は、当時判決の当事者間にのみ生じ、判決当事者でない主債務者との関係においては、その効果を生ずるものではなく、その債権は依然として短期消滅時効に服するものと解される(大審院昭和二〇年九月一〇日判決・民集二四巻八二頁。そして、連帯保証人は、主債務の消滅時効期間が経過したときは、その時効を援用することができ(大審院昭和八年一〇月一三日判決・民集一二巻二五二〇頁)、時効の援用により主債務が消滅したときは、民法四五八条、四三九条によりその債務を免れることができ、連帯保証人に対して既に確定判決を有している場合でも、連帯保証人が主債務の短期消滅時効を援用して債務を免れることを防ぐため、連帯保証人に対して同一請求権について再度の給付の訴えをする場合に訴えの利益があると認められることはありうる(東京高等裁判所平成五年一一月一五日判決・判例時報一四八一号一三九頁)。

5  ところが、本件での主債務者である訴外債務者は、前件判決前、昭和六〇年九月一三日に破産宣告(同時廃止)を受けたうえ、翌六一年八月一九日に免責決定を受けている。

右免責により、本件の主債務については、これを債権者が訴えにより請求することも、執行を強制することもできなくなり(破産法三六六条ノ一二)、ただ債務者からの任意の弁済を受領することはできる、いわゆる自然債務と化したのであるから、かかる債務について消滅時効を認める実益は認められないし、債権者からの債権の行使が考えられない以上、その権利を「行使することを得るとき」から進行するべき消滅時効の進行を観念する余地もないと解される。

そして、主債務者について免責の決定があっても、保証人の責任は影響を受けないで連帯保証人の保証債務は従前のまま存続する(破産法三六六条ノ一三)ので、主債務者が破産宣告を受けて免責決定を得た場合、連帯保証人に対して確定判決を得てその時効期間が一〇年となれば、連帯保証人は、主債務の短期消滅時効を援用することにより自己の債務を免れることはできないと解される。

そうであれば、債権者において連帯保証債務について確定判決を得ている以上、さらに主債務者の債務についての短期消滅時効の時効中断のため訴えを提起する要はなく、訴えの利益を欠くものというべきである。

6  前記のとおり、本件では、原告は被告に対する本件債権について平成三年二月二一日に確定判決を得ており消滅時効の期間は一〇年となっているので、その時効が完成するのは平成一三年二月二一日となる。とすれば、原告の被告に対する本件債権が時効により消滅するまで三年七か月以上の期間があるので、本件においては、確定判決を得た同一の請求について再度の給付の訴えを提起する要があるとは認められないから、本件の訴えについては、訴えの利益を認めることができない。

二  以上により、本件の原告の請求は訴えの利益を欠き不適法として、これを却下することとし、訴訟費用については民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

〈省略〉

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